こんにちは、ホスピタリティ弁護士の長屋です。
さて、今年もあと2か月を残すところとなりました。
今年やり残したことはありませんか。2か月もあると思って頑張って達成させましょう(たとえ達成できなくともきっとその気持ちは来年につながると思います)。
今回は事例問題です。
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X社はY社に対して、売掛金と買掛金の両方を有していました。ところが、Y社の取引先のA社が、X社の買掛金(Y社にとっての売掛金)を差し押さえてきました。
X社の売掛金の支払日は未だ到来していないためY社に支払いを求めることができません。一方で、X社の買掛金の支払日はすでに到来しているため、買掛金を差し押さえたA社から直ちに支払いするよう請求されました。
X社としては、売掛金の支払日が到来してから買掛金と相殺しようと思っていた矢先のことで、X社はA社の請求どおり買掛金を先に支払わなければならないのでしょうか。
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民法511条は「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない」と規定しています。
事例の場合、X社が第三債務者になりますので、差止めを受けた後に取得した債権(売掛金)でなければ(売掛金が買掛金の差押え前に取得されたものである限り)、A社に対抗することができると読めます(反対解釈)。
しかし、ここで疑問なのは、「A社に対抗できる」といっても、すでに支払日が到来している買掛金の支払いを拒み続けたうえで、売掛金の支払日が到来した途端に「相殺する!」と言えるかどうかです。
さて、どう思いますか。
相殺というのは、合理的な担保機能を有しており(資力のない相手方との簡易決済を可能とし、債権債務関係を円滑かつ公平に処理する合理的機能を有している)、「自働債権および受働債権の弁済期の前後を問わず、相殺適状に達しさえすれば、差押え後においても、これを自働債権として相殺をなしうる」(最判昭45・6・24)と判断されました。
したがって、事例の回答としては、「A社の請求どおりに支払う必要はなく、A社の請求を拒んで構わない(売掛金の支払日が到来したら「相殺する」と言えばよい)」となります。