ホスピタリティ弁護士の長屋です。
近年、少子高齢化が進み、将来に備えて任意後見など成年後見制度が次第に注目されるようになっています。しかし、一方で、経営者の事業承継に対する意識はまだまだ低いように感じます。オーナー企業の社長さんは本当にお元気でバリバリ働き、引退なんて考えたこともないという方が多いからかもしれません。
事業承継なんてまだ先のことだなんて考えておられるのではありませんか。
早すぎることなんてありません。仮に一度プランニングをしたとしても、状況に応じて見直していけばいいのです。その時のベストなお考えを残しておくことが大切です。
事前準備(遺言書作成、生前贈与、売買など)を怠ったがために、あなたが期待する後継者に会社を任せられなくなるかもしれませんし、最悪の場合、会社存続の危機を招きかねません。経営者は、会社の将来のため、事業用資産(株式、不動産等)の行く先を考えておかなければなりません。
たとえば、もし事前準備がなされないまま亡くなられた場合、①後継者に経営権(議決権の過半数)を確保させることが困難になる、②事業に使用している不動産(社屋、工場など)を相続できない、③スムーズな事業承継が実現せず、経営に混乱をきたすなどの問題が生じます。
少し具体的に言いますと、以下のような問題が生じえます。
①法定相続分に応じすべて株式だけで分割してもらったとしても、議決権の過半数に至らない場合もあります(株式評価額が高かった場合など)。また、株式は準共有状態になるため、株主権を行使する者(権利行使者)を一人定めて会社に通知しなければなりません(会社法106条)。そして、権利行使者は、共有者の全員一致でなく持分価格の多数決で決するとされていますので(最判H9.1.28)、仮に後継者以外の相続人が結託してしまうと、株主権の行使により後継者であった者はその地位を追いやられてしまいます。
②事業で使用していた不動産も共有になりますので、持分が第三者に譲渡されることもありますし、共有物分割請求(民法256条)がなされるかもしれません。事業に不可欠な不動産であれば、持分を買い取らなければなりませんが、足元を見られる可能性もあります(多額の資金が必要になります)。
③遺産分割する場合、その前提として、遺産の範囲を確定させなければなりません。すべて把握するには時間を要することもあります(争いがあれば、遺産の範囲を確定する訴訟手続きが必要になります)。また、遺産の範囲が確定しても、実際に分割する際には長期間を要することも多く、スムーズな事業承継が実現しない場合、適切な経営判断ができなくなり会社を廃業させざるをえなくなることもあります。
賢明な経営者なら、早めの事前対策をご検討いただくことが会社の将来のために重要であることはご理解いただけることと思います。後継者がスムーズに事業承継できるよう筋道を立てておくことが、一線で頑張ってこられた経営者の最後の使命ではないでしょうか。