こんばんは、ホスピタリティ弁護士の長屋です。
本日、裁判員裁判の判決があり、長い任務からようやく解放されました。
裁判員裁判は、審理期間中、ほぼ一日中拘束されるため、他の案件への制約が大きくなります。
さて、前回の続きです。
「名義株」が様々な場面で問題となるのはお伝したとおりですが、どうやって整理すればいいのでしょうか。
まず、一番手っ取り早いのは、名義貸与者(名義株主)に協力を要請して名義変更の手続きをする方法です。つまり、名義株主に名義変更してもらえるようお願いすることです。
もし名義貸与者(名義株主)の協力が得られた場合は、真の株主に名義変更する旨合意した書面(合意書・確認書など)をもらっておきましょう。
次に、名義貸与者(名義株主)の協力が得られない場合に、当該株式が「名義株」であると争う方法です。この場合、名義借用者が当該株式が「名義株」である旨主張、立証しなければなりません。
名義借用者が真の株主というためには、たとえば、次のような要素を検討することになります。
① 出資金の払い込み
② 名義貸与者と名義借用者との関係及び合意内容
③ 名義貸与者、名義借用者と会社との関係
④ 名義株の目的
⑤ 名義借りの理由の合理性
⑥ 配当金、新株の帰属状況
⑦ 議決権の行使状況
以上の要素を検討し、名義借用者が真の株主と認定されれば、株主名簿の記載を更正することになります。
しかし、これらの方法は、名義貸与者(名義株主)の協力が必要ですし、もし協力が得られない場合は、上記のとおり容易ではない立証を残すことになります。
そんな場合にはどうすればいいのでしょうか。
このような場合に、強制的に「名義株」を整理する方法、すなわち、全部取得条項付種類株式(会社法108条1項⑦)を利用する方法があります。
全部取得条項付種類株式とは「株主総会の特別決議により、その種類の株式の全部を取得することができる内容の種類株式」をいいます。
特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上にあたる多数をもって行う決議をいいますが、この方法を利用するには、特別決議を得られるだけの株式数を有していることが前提になります。
手続き的には次のような流れになります。
まず、そもそも種類株式を発行できる会社でない場合は、株主総会の特別決議により、種類株式を発行できるよう定款変更しなければなりません(会社法108条2項)。
そして、上記定款変更を行ったうえで、特別決議により、既発行株式(普通株式)に全部取得条項を付します(会社法108条1項⑦)。つまり、普通株式を全部取得条項付種類株式にするわけです。
その後、当該全部取得条項付種類株式を取得するため、特別決議により、取得対価や取得日などの事項を定め(会社法171条)、取得日に当該株式を取得します。
ここで、当該種類株式を取得する代わりに、オーナー社長の株式総数につき別の種類株式1株(A種優先株式など)を交付するようにすれば、金銭的な対価を支払うことなしにオーナー社長が一人種類株主(A種優先株主)として存在する形になります。そして、一方、名義株主のもとには1株未満株式が残される形になります。
こうすることで、「名義株」を無力化させ、名義貸与者(名義株主)の支配権に対する影響力を排除し、「名義株」を強制的に整理することができます(金銭的解決)。