最近、大型の台風が直撃することが多いですが、台風に関連して少しだけ。
最近、「この間の台風でウチの屋根の瓦が飛び、お隣の建物や自動車を損傷させてしまったのですが、賠償しなければならないのでしょうか」という相談を受けることがあります。
結論から言いますと、「賠償しなくても大丈夫な場合が多い」と思います。
民法では、土地工作物責任(民法717条1項)が定めらています。同条では「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたとき」に、所有者は無過失責任を負うとされています(土地工作物の占有者がいるときは一次的には占有者が責任を負います)。
屋根瓦は、一般的に風速25メートル以上であれば飛散するとされているようです。
風速25メートル以上の非常に強い台風が直撃すると、一般的に屋根瓦は吹き飛ぶということですので、屋根瓦が飛んでも設置や保存の瑕疵はなかったということになり、所有者は賠償責任を負う必要はないとされるのです。
ここで1点だけ気を付けていただきたいのは、屋根瓦に「瑕疵がある」ときには賠償責任を負うこともありえるということです。
例えば、屋根瓦がズレていたことは知っていたが修繕していなかった場合などは、損害を賠償しなければならない可能性もあるということです。
参考までに、賠償責任を認めた裁判例(福岡高裁H55.7.31判決)があります。
この裁判では「土地工作物に瑕疵がないというのは、一般に予想される程度までの強風に堪えられるものであることを意味し、・・・当該建物には予想される程度の強風が吹いても屋根瓦が飛散しないよう建物所有者の保護範囲に属する本来の備えがあるべきであるから、その備えがないときには、台風という自然力が働いたからといって、当該建物に瑕疵ないし瑕疵と損害との間に因果関係を欠くものではないと解すべき」と判示し、風速14.5メートルに達しないのに屋根瓦が飛散し始めたこと等を勘案したうえで、本来の備えが不十分だったと認定し、所有者の賠償責任を認めています。
なお、仮に工作物に瑕疵があっても風速50メートルを超えるような強風が吹き(竜巻などが分かりやすいかもしれません)、周辺の屋根瓦の多くが飛んでしまったような場合には、瑕疵の如何にかかわらず屋根瓦の多くは飛ぶでしょうから、賠償責任は否定されると思います。
とはいっても、強風と瑕疵の関係性を見極めるのは難しいと思われますので、くれぐれも設置状態や保存状態には注意しておいてください。