認知症患者が、線路内に立ち入り、列車に衝突してJRに損害を生じさせた事件について、最高裁判所の判決が出ました(最判H28.3.1)。
判決の内容を少しだけご紹介します。
判決では、
「精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう『責任無能力者を監督する法定の義務を負う者』に当たるとすることはできない」と判断し、原審で認められていた同居の妻の責任を否定しました。
もっとも、
「法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるげき特段の事情が認められる場合には、衡平の見地から法定の監督義務を負うものと同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり、このような者については、法定の監督義務者に準ずるべき者として、同条1項が類推適用されると解すべきである」(最判S58.2.24)
とし、
「準ずべき者」か否かを、
①その者自身の生活状況や心身の状況
②精神障害者との親族関係の有無・濃淡
③同居の有無その他の日常的な接触の程度
④精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情
⑤精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
⑥これらに対応して行われている監護や介護の実態
など諸般の事情を総合考慮して、
「その者が精神障害者を現に監督しているかあるいは監督することが可能かつ容易であるなど衡平の見地からその者に対し精神障害者の行為に係る責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべき」
としました。
そして、
同居の妻は、
要介護1の認定を受けており、介護も補助を受けながらであった
介護状況を把握していた長男は、
20年以上も同居しておらず、1か月に3回程度週末に訪ねていたにすぎない
などから、加害行為を防止するために監督することが現実的に可能な状況にあったとはいえず、その監督義務を引き受けていたとみるべき特段の事情はない、として
「法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない」
と結論付けています。