ホスピタリティ弁護士の長屋です。
先日、書き忘れた内容の補足です。
遺品の整理については、常識の範囲内で、常識的に対処いただいて結構かと思います。
少しだけ、他の裁判例を調べてみましたのでご参考までに。
※ 「処分」に該当しなかったケース
・交換価値を失う程度に着古した衣類は一般的経済的価値があるものではない(東京高決昭37.7.19)
・相当多数の遺産の中から背広やコート、時計、椅子をもらった場合(山口地徳山支判昭40.5.13)
・被相続人の着衣や身の回りの品、わずかな現金を受け取った場合(大阪高判昭54.3.22)
・葬式費用に相続財産の一部を使用したという場合は遺族として当然の行為をしたにすぎないから信義則上処分に該当しない(東京高昭11.9.21)
※ 「処分」に該当したケース
・被相続人の衣類を形見分けとして近親者に贈与したにすぎない場合でも、その衣類が経済的価値を有している以上相続財産の処分に該当する(大判昭3.7.3)
・被相続人が代物弁済の予約をしていたのを実行した行為(大判昭12.1.30)
・債権を取り立ててこれを受領した行為(最判昭37.6.21)
・株主権を行使したり遺産である賃貸マンションの転貸料の振込先を被相続人から相続人名義に変更した行為(東京地平10.4.24)
ちなみに、「処分」は、相続人が自己のために相続が開始したことを知りまたは確実視しながらされることを要するとされていますので(最判昭42.4.27)、相続開始を知らずに処分した場合は問題ありません。
次に、「死亡保険金を受け取っても大丈夫か」というご相談についてです。
受け取ると単純承認となるのでしょうか。相続放棄した後でも受け取れるのでしょうか。
例えば、借金はあるが生命保険を掛けているので、自分が死んだら死亡保険金から支払ってほしいなどと生前に言っていた場合に問題になります。
結論としましては、死亡保険金の請求権限は保険契約や約款から生じる効果なので相続に該当せず(固有財産となる)、単純承認や相続放棄の対象にはなりません(なお、相続税法上の課税対象財産ですので多額の場合は課税される可能性があります)。
つまり、死亡保険金は受け取ってもらって構わないということです(受け取ったのちに相続放棄することもできます)。
しかし、一つだけ注意してください。
受取人欄に「被相続人(故人)」と記載している場合です(このようなケースは殆どないとは思いますが)。
この場合、保険契約の効果が被相続人(故人)に付与され、その後、相続するという順番になりますので、死亡保険金を受け取ると単純承認になりますし、相続放棄したのちには受け取ることができません。
以上のとおり、上記事例では、死亡保険金で借金を返済する必要はないということになります。
ただ、こういった場合、法律論を離れた個人的な意見になりますが、生前に故人がお世話になった知人や親類から借金していた場合などは、故人の遺志を汲んで一部返済に回してあげるのが故人の供養にもなるのではないかと思いますし、将来の感情的なしこりを残さずに済むのではないかと思います。
このような生命保険金と単純承認について、裁判例を一つご紹介しておきます。
「相続人が、被相続人の死亡保険金の支払請求をしてこれを受領したこと、受領した保険金で相続債務の一部を弁済したこと、被相続人が加入していた共済組合へ事故共済金の支払請求をしたことは、いずれも、民法921条1号本文の法定単純承認事由たる相続財産の全部又は一部の処分行為にはあたらない」(福岡高裁宮崎支部H10.12.22決定)