遺言が甚だ不合理な内容であったり、内容が不明確であったり、解釈が困難な場合も少なからず見受けられます。
そのような場合に、遺言を無視して相続人間で遺産分割協議を成立させてもいいのでしょうか。
1 遺言執行者の指定がない場合
遺言執行者の指定がない場合は、相続人全員(受遺者含む)の同意があれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議は有効とされています。
2 遺言執行者の指定がある場合
遺言執行者が選任されている場合は、「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有」(民法1012条1項)し、「相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」(民法1013条)とされています。
したがって、相続人全員の同意があっても、遺言と異なる内容の遺産分割協議は無効になります。
ところで、遺言執行者は「遺言の執行に必要な行為」をすることができますので、遺産分割協議の同意又は追認も「執行に必要な行為」であり、遺言執行者の同意又は追認がある場合は、遺言と異なる内容の遺産分割協議も有効と修正されるというのが実務といえるでしょう。
それでは、遺言執行者が同意又は追認していない場合はどうなるのでしょうか。
やはり原則に立ち返り無効とすべきなのでしょうか。
遺言執行者が遺言のとおりに執行したとしても、民法には私的自治(当事者間で決定する)という大前提があるため、執行後に相続人の希望どおりに処分行為をし直すことは当然でき、手間も費用もかかる処分行為をさせることが妥当なのか、そもそも誰のためになるのかという疑問が湧いてきます。
裁判例(東京地裁平成13年6月13日判決)ではありますが、遺言執行者の同意又は追認がなくとも、相続人全員でした遺産分割協議も有効とされた事案もありますので参考にしてみてください。